Impressive Words
- Pablo Casals
出典
本日付け東京新聞コラム・「筆洗 」より
チェロの巨匠カザルスは、第一次大戦の惨禍を目の当たりにし、考えたという。たった一人の子供の命の方が音楽全部より価値がある…。圧倒的な暴力を前にして、芸術の無力さに苦悶(くもん)したのだ(『鳥の歌』ちくま文庫)。
「人間が極限状態に置かれた時、音楽は何の役に立つのか?」。演奏家として活躍した経験がある作家ひのまどかさんはそんな疑問を胸に、第二次大戦中にソ連のレニングラード(現サンクトペテルブルク)で開かれた演奏会の姿に迫った。『戦火のシンフォニー』(新潮社)はそういう本だ。
当時その街はナチス・ドイツに包囲されていた。絶え間ない砲撃と飢餓、街角に放置される遺体。それでも人々は、劇場に詰め掛けた。太鼓の音にすらぬくもりを感じたのだ。
その象徴ともいえるのが、作曲家ショスタコービッチが愛するレニングラードに捧げた「交響曲第七番」の演奏会だった。音楽の響きに演奏家も聴衆も自分たち自身の鼓動を見いだし、涙したという。七十二年前の八月九日のことである。
カザルスもこう考えるに至ったという。「それでも、私が世界の狂気のただなかで精神の安定を保つことができたのは音楽のおかげだ」
「戦争中ずっと音楽は私に、人間はこんなにもおおくの罪を犯し、こんなにもおおくの苦しみを味わわせもするが、美を作ることもできるのだ、と確信させてくれた」
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